文章構成能力向上化計画書庫

なぎさ        

みぎわ    


 私は今、無人航行実験中に謎の陽炎――恐らくは闇呪猫さんの世界の自然発生ゲートだと思いますが――
に吸い込まれ、この海域にいます。突然の事でSOSさえも打電できませんでした。
 話には聞いていたのですが、私から陸側に約30000m離れたハンターの物と思わしき航空機や艦艇の多さに驚愕しました。
 どうやら狩りの現場の真只中に出現してしまった様で、その陣形から判断する限り、私の現在地より沖に約10000m離れた
地点に彼等の獲物が居るようです。思いっきり挟まれました。

「一応報告すると、情報衛星Lost、全友軍艦Lost、全友軍施設Lost。孤立無援ってのはこの事を言うんだよな・・・。」
 そうネコが嘆いていますが、確かにその通りです。ハンター側には手を出さなければ攻撃させることは無いとは思いますが
そのハンターの狙う魔物の種類と動きが全くわからないのが非常に困ります。

 ・・・パッスィブ・ソナー感あり!!

 そうこうしている内に事態は動き出したようです。
水中に居た魔物が動き出し、航空機からの攻撃を難なく無効化しつつその巨体を海上に出現させました。
大型艦が大型砲を、中小型艦は魚雷を撃ち出しました。目標まで40000mと言えば充分に射程ですから・・・・・・。
「ソナーとレーダーだけでは詳細を知るは無理ですね。主砲光学照準器を観測器として使用します。」
「了解。・・・今日は兵装の使用許可が事前に下りてるが、主砲の安全装置は掛けとけよ。」
「解ってますよ。」
 無人のブリッジでそんな会話をした後に主砲塔を旋回させその魔物を照準器に捕らえました。
「龍・・・だな。」
「龍・・・ですよね・・・。あれが話に聞く戦艦を軽々と沈めるシードラゴンでしょうか?」
 今までは魔物を刺激するのも、ハンター艦隊を刺激するのも危険だと判断したので身体(艇体)を全く動かしてなかった
のですがこれで今後の方針が決まりました。存続を最優先し、この海域から離脱、レーダで捕らえた海岸線に向かいます。
 ・・・陸地に近づけば闇呪猫さんに合えるかもしれませんし・・・。
「とにかく陸地に向かって離脱します。機関出力最大、両舷全速、スクリュー・ピッチ変更+15・・・」
 機関が振動し始めスクリューが水を押し出し、艇首から白いウェーキが伸びていきます。
「異論は無いが・・・FSCの勝手が普段と違う事だけは気をつけろよ」
「今日の無人航行実験はSSMウェポンユニットの試験も兼ねていましたからね。」
 そう、今日の私は先日完成したばかりのウェポンユニットに適合したSSMランチャーを実験のために
元第二砲塔設置部に装備しており、普段とは違い対艦戦闘能力があります。
 が、それは同時に身体(艇体)の感覚が普段とは違う事を意味する為、ネコさんはそれを心配しているのでしょう。
「とりあえずSSMのお陰で選択肢が増えましたから・・・良いのではないでしょうか?」
「まあ・・・、そうなんだけどな。」
 私はシードラゴンに背を向け最大戦速でハンター艦隊の直中へと突入していきました。

2.
 私が唐突に動いた事によりハンター艦隊に動揺が見られました。
あきらかにシードラゴンを攻撃目標とする艦と、艦艇としては超高速の分類に入る速力で接近する私を警戒する艦に分かれています。
・・・・・・まあ、私が小さいためにそれほど警戒はせず、小型艦艇を数隻回しただけでしたが。
「で、どうする。このまま進めば確実に針路を阻まれる上に下手したら囲まれるぞ。」
 ハンター側は小型艦の特性を生かし急速に私に対する包囲網を狭めつつあります。
「電文でも送って見るか?少しは情況が好転するかも知れん」
「その好転する確率と同じ確率で悪化するでしょうね。」
「だろうがな・・・」
 火力による強行突破を行う可能性も含めFCSを完全起動させ、全兵装の安全装置を解除しました。

 私が移動し始めてから13分後、ハンター艦隊と接触した頃にネコさんが問いかけてきました。
「で、思いっきり針路妨害を掛けられたな。どうする?」
 私の針路には2隻のハンター艦が割り込み、その他の艦も私が針路を変えた際に簡単に妨害が出来る位置についており
予想していた最悪の状況に近づいています。
「とりあえず電文を送りますよ。脅迫まがいの内容ですが。」
 その脅迫まがいの電文にあわせ、20oガトリング砲の砲口を最も近いハンター艦に向けました。
「あ、言語体形とか通信系統とか同じか?」
「その辺は御都合主義によって無視されます。」
 ハンターのシードラゴン攻撃艦隊が私の脇を通り過ぎて行きました。

 まったく退かないハンター艦に対して強行突破を行う事で私とネコさんの意見は一致しました。
「で、SSMは使うのか?」
「馴れない物は出来る限り使いません。20oガトリング砲で通信、索敵系統を破壊し、目を潰し統率力を無くします。
盲目で統率の無い包囲網など無意味ですから。」
「ん、了解・・・。」
「一応、交戦宣言をしますか。」
 音声通信を起動させ、私の声を出力するように設定しました。
「This is MIZUHO Navy PatrolBoat PB 102−12 「NAGISA」・・・・・・Encage!!」

3.
 私の主砲である、110口径20oガトリング砲の六つに束ねられた砲身が数瞬程空転した後、20o砲弾を毎秒100で撃ち出し、
私から最も近いハンター艦のレーダー、通信アンテナ、マスト、探照灯を叩き始めました。
 たかが20o砲弾では戦闘艦の装甲を貫くことは不可能なのですが、近距離で目標をこれらに限定すれば充分な威力を発揮します。
事実、攻撃開始から30秒で一隻の索敵通信能力を無くす事に成功しました。今頃になって見張り員が艦橋速部や甲板上に出てき
て目視による索敵を始めましたが、問題ありません。一気に反応が鈍ったハンター艦を回避し、攻撃対象を次の艦へと移しました。
「一方的な攻撃だな・・・。これが後何分続く事やら」
 ネコさんがECMを実行しつつ結果を見て呟きました。
 今の所、いきなりの交戦宣言や索敵通信能力の喪失により一時的な混乱状態に陥ったハンター艦ですが、次の艦は既に攻撃
体制を整えている物と判断します。先程の艦もレーダーを使う必要の無い速射砲を回頭させ、私に照準を合わせようとしています。
「ランダム回避運動をしつつ攻撃を実行します。回避運動経路算出願います。」
「了解。・・・早めに索敵通信を潰して離脱しようか。」
 真のランダムは人間よりもコンピューターのほうが得意です。・・・まあそんなことはどうだって良いのですが、人間が操艦
するのに比べて予想のしにくい私の操艇はハンター艦からの速射砲を難なく回避し、二席目のハンター艦に接近しました。
「距離4000、射程に入ったぞ。・・・もっと肉薄すればミサイルは来ないだろうが速射砲がな・・・。」
「速射砲は潰せませんからね・・・。とにかく攻撃開始します。」
 ガトリング砲が再び火を噴き、ハンター艦のマストを中心に着弾し破壊します。
 右に舵を切った次の瞬間に左舷ギリギリを2発、その0.5秒後に急制動、取舵をかけた私のブリッジの直前を1発の速射砲弾がすり抜けました。
「今の機動、結構機関や身体(艇体)に負担が掛かるんじゃないか?」
「被弾するよりもマシですよ。」
 かるく艇首を左に向け速射砲弾をかわしました。
「そりゃそうだがな。・・・と、標的の索敵通信能力は喪失したぞ。」
「それではこの艦の脅威は速射砲だけですね。距離をとればあまり問題は無いでしょう。」

 ハンター艦隊との接触から10分後、駆逐艦程度の大きさのハンター艦3隻と駆潜艇と思わしき小型艇一隻の索敵通信能力を
何とか被弾0で喪失させた私は再度海岸線に針路を取りました。
 盲目の艦艇を除くと私に最も近い艦は後方16000mのシードラゴン攻撃艦隊です。まず追いつける艦艇は存在しえません。
本当に間近の盲目艦艇でも45kt以上を出さなければ追いつけないのですから。
 機関音も軽やかに、純白のウェーキを後ろに残し、彼等の狩場から離れ・・・させてはくれないようです。
 確かに私に追いつける事が出来る艦艇はいないでしょう。しかし追いつけない航空機はほぼ存在しません。構造上低速に
ならざるを得ないヘリコプターでも100kt以上出るものが大半です。
 航空機からのASMを距離200mで迎撃し終えたと思ったらネコさんからの報告が入りました。
「シードラゴン攻撃艦隊が数を減らして戻ってきたな。それでも大型艦三隻、中型艦五隻、小型艦四隻の艦隊だ。」
「大型艦のうち空母は何隻ですか?」
「二隻・・・のようだ。二隻から航空機の反応が次々と出てる。後一隻の大型艦は戦艦のようだな。」
「中、小型艦は巡洋艦と駆逐艦のようですけど・・・海戦のオールスター勢揃いですか?」
 私は半分呆れつつ、主砲の仰角を上げ、対空迎撃体制を整えました。

4.
「撃墜四機目、脱出確認。」
 ネコさんの言葉と共に対空レーダーからまた一つ反応が消えました。
「スコアをつけている場合じゃありませんよ。
大体にして何で強行突破のために機関砲を多少撃っただけでなんで空母や戦艦から攻撃を受けなくてはならないんですか!」
 ハンター艦隊は何故かシードラゴンから逃げる傍ら、私に対して攻撃を掛けてきたのです。
 SSMやASMを迎撃して15in以上は有るであろう戦艦の主砲や5in程度の副砲、駆逐艦の速射砲。8inの巡洋艦主砲を回避し、
処理速度に特化しているはずのAI用電算機すら悲鳴を上げかねない情報を整理し、何とか被弾は0でした。至近弾は三桁を超えていますが・・・。
「あ〜。それなら心当たりが一つあるな。」
「一体それは何ですか!」
 何時もの癖でG3A3をホログラム表示、所謂、流れるような動作という物で左手がコッキングレバーを引き、照準をネコさんに合わせていました。
「・・・・・・交戦宣言のとき、映像通信だったのに気付いてなかったのか?
かなりの高出力広周波数域通信だったから主力艦隊のほうにも届いてると思うが。」
「あ・・・・・・。」
「それにお前のホログラム体は・・・その何だ・・・」
「そう言うことですか・・・。魔物と間違われた・・・と・・・。で、シードラゴンは狩れなかったからせめて私だけでもという事ですね・・・。」
 SSM連装ランチャーを起動させ、SSMを発射台に装填、ある程度旋回させハンター大型艦群へと向けました。
「映像通信の規格が同じなのは何故なのか非常に気になりますが。」
「ご都合主義だ。」
 二機のSSMにそれぞれ二隻の空母の位置座標を入力し、発射しました。ランチャー自体は古い型ですが、SSMは最新鋭の物で、多少の
ジャミングではまずソフト・キル不可能、弾速が早く、SSM自体が小さい為ハードキルも困難を極める代物です。
「八つ当たりはするなよ・・・。」
 SSMを見送りつつ、ネコさんが少々呆れた口調で言い、かなり言い訳じみた答えを返しました。
「航空機からの攻撃が激しいので大元を叩こうかと思いまして。カタパルトを破壊できれば航空機を出せませんし。」
 SSMはハンター艦の迎撃を物ともせずに突き進んで行きます。
ジャミングも全く利いていない様子で、海面ギリギリの高度を高速ですり抜け目標付近でホップアップ。
 腹を見せレーダー波反射面積を大きくした状態は2秒もしないうちに終わりSSMは急降下を始めています。
ホップアップから4秒後には二隻の空母の航空機運用能力は消滅しました。残りの脅威は駆逐艦、巡洋艦と戦艦です。
「早いところ離脱するか全艦の戦闘能力を無くすかだが・・・戦艦は論外だよな。」
「当たり前の事を言わないで下さい。手早く素早くとっとと俊敏に離脱します。」
「いや、微妙に台詞回しがくどいぞ・・・。」

 はっきり言って無謀でした。
離脱を最優先した戦闘であっても絶対的な数の差と言う物が有るのですから。
「くそ!被レーダー照準警報!航路算出完了、回避不能!!」
 私は四隻の駆逐艦の速射砲が完全に私を捉えています。三隻まで回避できても残りの一隻は回避できません。
排水量が非常に小さい私では一撃で致命傷です。人生(艇生)を此処で終える事も覚悟しました。
・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・シャドウクラッシュ!!」
 不意に私達以外の声が聞こえ、四隻の駆逐艦の速射砲が全て黒い膜のような物で覆われ、それが晴れたときには速射砲の砲身が歪み、
またはターレットリングからずれ落ち、または大破した状態で現われました。
 危機が去った事に安堵したと共にふと声の主が気になり、光学センサーを一通りチェックしたところ給排気系統直後にその人影はありました。
いえ、人ではありません。何処か私と似たあの姿、耳と尻尾・・・
「闇呪猫さんだな。センサーのログを確認したら陽炎と熱源反応が突然出現してる。」
 甲板上のスピーカーをONにして呼びかけました。
「すみません、闇呪猫さん。危険ですのでブリッジに入っていただけますか?扉は今開けますので。
 ブリッジ側部の防水扉のロックを解除し開放しました。
とにかくここに詳しい人が味方に付いてくれた事は非常に有り難いのです。

5.
 闇呪猫さんが艇内に入った事を確認して防水扉を閉鎖しました。
「そこからブリッジへの通路だけ扉が開いていますので、迷う事は無いと思いますがブリッジに来ていただけますか?」
「ゲートで行ってもいいんだけどね。」
 数瞬後、闇呪猫さんは私のブリッジに着きました。
無人だから無意味だという事でOFFにしていたブリッジ内の全てのモニタをONにします。軽くブリッジが光に包まれたようになりました。
「それにしてもハンターの数が多いわね・・・。」
 闇呪猫さんが各種センサーからの情報を複合して投影したメインモニタを見て呟いきました。
航空機は空母に戻れず陸上基地に戻ったようですが艦艇の数は変わっていません。
「ところで、どうしてここへ?」
 まあ、ある意味当然の質問をネコさんが投げ掛けました。
「なんかハンターがシードラゴンを大量の戦艦で狩ろうとしてるって聞いたから見に行ってみたらなぎささんが囲まれてるのを見つけて・・・」
「\_sまた何処までもご都合主義な・・・\_s」
 いまはとりあえずご都合主義に感謝しつつハンター艦からのSSMを迎撃する事にします。
「・・・なぎささんが戦っているところを見るのは初めてだけど凄い迫力ね。」
「そりゃブリッジの目の前で毎分6000発を撃つ砲塔が動いてるんだしな。」
 微妙に緊張感の無い世間話に為りつつある気がします。状況を少しでも好転させる為に勇気を持って話を切り出したいと思います。
「・・・すみません、お話中失礼します。この近くにハンターとシードラゴンが近寄れない海域はありませんか?
シードラゴンは十中八九私とハンター艦隊を同一視してますし、ハンター艦隊は私を魔物とでも勘違いしているようで・・・。」
「海域って言われても・・・ちょっと解らないわね。」
 闇呪猫さんは少々困惑した様子で答えました。
「せめてハンターから離れることが出来れば多少は楽なんですけどね。そういえば私が針路を取っている陸地にあるのはもしかして・・・」
「そのもしかしてよ。ハンターの村があるわ。ハンターから離れるなら真逆の方向が一番良いんだけど。」
「無理だな。こっちの船足がなまじ速いから後ろは完全にシードラゴンとハンター艦隊に固められた。」
 毎度の如くレーダー担当のネコさんが、口を挟みました。
「いっその事こっちからシードラゴンを攻撃してハンター艦隊への反撃をさせるか。」
「いや、その方法では私も攻撃を受けますから・・・。・・・そういえばシードラゴンの攻撃方法は何ですか?」
 もしかしたらその攻撃を無効化できるかもしれないという一抹の期待を持って闇呪猫さんに聞きました。
「そうね・・・ドラゴンブレスとかビックウェーブ、アイスウェーブとかの魔法だっだはずよ。」
「ちょっとその魔法の特性について詳しくお聞かせ願えませんか?」

 なんとか為らなくもなさそうです。SSMが発射台に再装填されている事を確認しました。
「ネコさん。そのプラン承認です。それなりに距離が離れていますから遠距離まで届くビックウェーブを使うでしょうから・・・」
「ん、了解だ。SSMに諸元入力しとくぞ・・・・・・あと発案者の責任だ。この攻撃はこっちが受け持つ」
「解りました。迎撃と回避行動に専念させて頂きますね。」
「私は・・・そうね、ハンターの艦の相手をしてくるわ。」
 闇呪猫さんがブリッジ側部の船楼へと出て行きました。
「非常に揺れますから気をつけてくださいよ!」
「解ってるわ!」

6.
「シャドウボール!・・・じゃ駄目のようね・・・。」
 闇呪猫さんがハンター巡洋艦の中央に魔法攻撃をかけています。
「一番装甲の厚い部分ですよ、そこは・・・。他にも砲塔の装甲も厚いですから、装甲が薄めの艦首か艦尾を狙ってみてください。」
「あ、そうなの。ははは・・・・・・。それなら」
 闇呪猫さんが詠唱を始めました。今までよりも詠唱時間が長い気がします。
「成長魔法成功。それじゃ早速、・・・・・・ダークスフィア!」
 ・・・・・・唖然としてしまいました。ポーランド級条約型重巡や最上型条約型軽巡並みの巡洋艦の艦首が一撃で消し飛び、撃沈されたのです。
「こんなもんかしら?」
 何処か満足げな表情の闇呪猫さんが船楼に居ました。
「・・・・・・名も知らぬ戦乙女の冥福を祈ります。」
「戦乙女?」
 闇呪猫さんの満足げな表情が一転、呆れた表情へと変わっていました。
「開発技術部長は艦船女性説支持者だからな。その影響だろ・・・。」

 闇呪猫さんの魔法攻撃により、この戦い初の撃沈艦を出した私達ですが、その結果、ハンター艦隊は私から距離を取ってしまいました。
今までは私を停船させる為に近距離からの砲撃を中心とした攻撃だった為、闇呪猫さんの射程に入っていたようですが射程外に出てしまいました。
「SSM、シードラゴンへの攻撃準備完了。始めるぞ!」
「了解です。」
SSMランチャーが二発のSSMを発射、SSMが一直線にシードラゴンへと向かっています。
「ハンター艦隊に堕とされない様に強力なECMをかけたからな。」
 確かに発電機出力の内、電子戦兵装の消費が上がっています。
「ちょっと話が見えないんだけど・・・」
「とくかくシードラゴンがそろそろ攻撃を掛けてくるって事だ。」
 予想が当たることを祈り、レーダーに注意しているとハンター艦隊に動きが見られました。
「ハンター艦隊、全艦SSM射出!ハンター戦艦及び巡洋艦、発砲!回避運動及び迎撃開始します!」
 何故今のタイミングで総攻撃とも言えるような攻撃を掛けてくるかは知りませんが絶対に避け切らなければいけません。
 カナード展開、バウスラスター起動。超高機動操船を開始します。
「揺れるぞ。何かに掴った方が良いな。」
 どうにも素っ気無い様子で闇呪猫さんに注意を促していますが・・・
「私の操船ってそんなに荒いですか?」
 急速転針右90度を40ktで実行中に言っても説得力は無いかもしれませんが。
「身体(艇体)が30度傾いて悪くないというかお前は。」
「ちょっときつかったわよ、今のは。」
 さすがに荒かったようです・・・。

7.
 超音速のハンター戦艦及び巡洋艦の主砲弾は強引な回避運動でかわしましたが、至近弾の爆風は次々に私を襲いました。
「爆風による深刻な被害は無いが少々きついな。あとカナード、バウスラスター共に過負荷・・・。もうちょい自分の身体(艇体)を労われ。」
「掴まってるほうの身にもなって。横Gが・・・」
「すみません、被弾するよりかはと思いまして。」
 ハンター艦隊は私の周囲を埋め尽くすような砲撃を持続させ、有りっ丈のSSMを射出してきました。一隻を沈めるには充分すぎる攻撃を・・・
・・・無差別飽和攻撃、ハルマゲドンモードを戦艦込みで私に向かって実行されるとは思いませんでした。
 私が高速で移動する為に広範囲にばら撒かれた砲弾は簡単に回避ができるのですがアクティブ・ホーミングのSSMは堕とすかシーカーを騙す
必要が有ります。しかし軽く100を超えるSSMを迎撃できるとは言いきれません。かといって強力なジャミングをかけるほど余裕はありません。
「ある種の手詰まりか。・・・こっちでも同じ解析して同じ結果が出ただけだよ。」
 さすがに情報共有化しているだけはありますね。
「なんの話?この画面にやたらと(*1)赤い三角が表示されてるけど」
「実は赫赫然然で。」
「そう言うこと・・・。つまりこれを全部落しちゃえば良いわけね。」
 闇呪猫さんがメインパネルに表示された赤い三角の大群を指して言いました。
「そう言うことです。」
「じゃ、話は簡単ね。私が落すわ。・・・・・・・・・」
 そう言うなり闇呪猫さんは呪文詠唱を始めました。
「ブラックホール!」
 唐突に黒球が私とSSMの間に出現し、周囲のあらゆる物がそれに吸い込まれていきます。重力場に異常も見られました。
「名前の如く、ブラックホールか。」
 綺麗さっぱりSSMが消えてなくなり、それを見た筈のハンター艦隊は無駄だと悟ったのか攻撃を中止しました。
「シードラゴンにはとっくに着弾してる。そろそろアクションがあるかな?」
 そうこう言う内にシードラゴンが吼え、波が起こり始めました。
「ビックウェイブ・・・ね。」
「特殊回避運動開始します。全水密扉及び隔壁、閉鎖。針路変更します。」
 鈍く重い音と共に次々と水密扉と隔壁が閉じられていきました。船楼の水密扉が閉まる直前に闇呪猫さんがブリッジに戻ってきました。
艇首をビックウェイブに向け、注排水ポンプを作動、注水開始・・・。喫水線が深くなります。
「潜航、開始します。」
「また無茶な操船を・・・」
 喫水が通常より2m深くなりました。間も無く甲板も水面下へと潜るでしょう。
「ビックウェイブ、ハンター艦隊と接触!ハンター駆逐艦、轟沈!!大丈夫か?」
「大丈夫ですって。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(多分)」
「括弧付きの多分ってなんだよ?」
「私はなぎささんを信じるわ。」
 喫水が甲板に達し、20oガトリング砲やSSMランチャーが海水に浸かります。
「これ以上潜ると給排気系が水を被る。潜水中止だ。」
 確かに海面が煙突の排気口ギリギリまで迫っていました。
 現在、海面からはブリッジの最上層と前後のレーダーマスト、煙突が申し訳程度に出ているだけです。
「ビックウェイブが着たわよ!」
 その一言で給排気系も完全に閉鎖し、身体(艇体)の機密を完全にしました。
「可能な限り、対処はしました。あとは運に任せます。」
「良いのかそれで。」
 次の瞬間、私はビックウェイブに巻き込まれました。
*1
鋼鉄の咆哮参照。とりあえず敵ミサイルだと考えれば間違い有りませんが。

8.
 海面下に身体(艇体)の殆どを沈めていた為津波の規模に対して私の身体(艇体)の動揺は少なかったのですがあくまで比較で少ないだけです。
海水を身体(艇体)の中に入れ、排水量が普段の1.5倍近くになっただけの身体(艇体)は容赦なく揺り動かしました。
ブリッジからは海水しか見えません。
「艇体姿勢異常!!ランチ大破!!探照塔小破!!津波通過予想は後40秒!!大丈夫か?」
 ネコさんが被害報告を出しますが如何仕様もありません。今も艇首から波を被り、傾斜角度を上げています。
「きゃ!!」
 傾斜に耐えれなくなった闇呪猫さんがバランスを崩しました。
「座席について下さい。これから更に無茶をします。」
 投錨、鎖のある限り錨を落とし艇首が上昇するのを押さえようとしました。
「スポイラが有れば・・・。いやそんな場合じゃないな。、通過予想、25秒!」

 津波が通過した後の被害報告は散々な物でした。
パラボラアンテナ、レーダーマスト等が小破、各種レーダーもノイズが混じります。
全探照塔、後部40o機関砲マウント中破、ランチは大破しています。艇内通路は水浸し。ブリッジの風防も破壊寸前の物が少々ありました。
 さすがに20oガトリング砲塔とSSMランチャー、大型甲板上構造物への被害は無視できるレベルでしたが。
「沈まなかっただけマシ・・・なのか?」
「生きた心地がしなかったわ。」

 一方のハンター艦隊は流石に戦艦、空母等の大型艦はほぼ損害無しだったのですが、駆逐艦は全滅、巡洋艦も半数が転覆し、残りも
マストやブリッジ等への損害が大きく戦力にはなりえない状態でした。
 甲板が損傷した空母は戦力にはなりません。戦艦もよく見れば全く動かず、もしかしたら航行不能かもしれません。
 シードラゴンは満足したようで何処とも無く消えていきました。助かったようです。

 1時間後、とりあえずハンターに見つからない狭く岩の多い入り江に私は居ました。
安全な場所で闇呪猫さんがゲートを開く為ですが。
「さすがに大きいわね・・・。」
「申し訳ありません、お世話になりっ放しで。」
 光学センサーが陽炎を捕らえました。陽炎が私を包みます。
「また、どこかでお会いしましょう。それでは・・・」
「じゃあね」
 完全に視界が光に覆われ、レーダーや通信機はノイズを出力するだけでした。

 ノイズが晴れ、最初に飛び込んできた通信は開発技術部長からの物でした。
「何が有った!!損傷があるが大丈夫か!?」
 私は私の世界へと帰ってきました。

8話の後書き
 終わりました。纏めが無茶苦茶な気がします。
「後半十数行、俺の存在を忘れてただろ」
全く持って申し訳御座いません。

1.
 夜間警戒航行中の通称、猫耳艦隊。
駆逐艦【みぎわ】を旗艦とする人格付与艦三隻で構成された艦隊である。
 今夜も平和に航行を終えるはずだったのだが・・・。
「ん、艦内時計に異常発生。なんか逆転してる・・・」
「…全計…器…、…異常発…生…!」
「通信不能にレーダーがホワイトアウト・・・ねぇ。」
 立て続けに発生する異常現象。さらに操舵手からの報告が入る。
「十二時方向に異常な陽炎!」
 流石にみぎわ艦長兼艦隊司令も慌てて指示を飛ばす。
「緊急回避だ!可能な限り即急に離脱、帰港せよ」
 その指示に操舵手が一気に舵を取るが【みぎわ】は反応しない。同じ命令が伝えられた筈の【みなと】と【もみ】も同様である。
「みぎわ、如何した!?」
 急に大声で呼ばれたため、一瞬硬直したみぎわだがすぐに返答する。
「舵は正常に作動してる筈だよ。計器の異常は表面だけだからね。
・・・・・・あの陽炎に吸い込まれてる気がする。」
 【みなと】及び【もみ】艦橋でも同じような報告がされていた。
 艦首から虹色に光り、その存在が揺らぐ
「回避不能!!対ショック、対閃光防御!!」


――猫耳艦隊は、この瑞穂のある世界から消えた――


 ・・・みぎわ達AIはその異変にその異変に最も早く気づいてはいたが、乗組員は違っていた。
陽炎の前も後も360度水平線しかなく、レーダーも無反応。
GPSの情報を確認しないと異変には気付かない。海水の色等の違いは夜の闇によって誤魔化される。
「・ ・ ・ ・ ・ ・ 全友軍、LOST」
 艦橋が沈黙する。
「月、満月だったよね?」
 みぎわの一言が止めを刺した。空には半月が浮かんでいる。

 誰もが沈黙に耐えられなくなった頃、艦隊司令が口を開く。
「今の任務は瑞穂近海の警戒だよな。・・・・・・で、ここは瑞穂近海じゃない訳だ。空を見てみろ」
 艦橋の全員が窓から見上げる。みぎわも見上げているが実際には速射砲の光学照準器を使っている。
「星座の形が違うし、北極星すらないよ。」
 勝手に人様のゴーストの世界観を作って良いのかと思いつつ・・・。
「とにかく帰港するべきだが・・・方位はわかるか?」
「コンパスの調子は微妙・・・地磁気が乱れてるのかな?」

2.
 で、燃料にも限りがあるため、機関を止めて周辺探査をしている猫耳艦隊。
「レーダー有効範囲は全て海。島も船も無いね。GPSも海図も無効だし・・・。通りがかった船に何か聞くのが一番かな?」
 みぎわがぶつぶつ呟いている。
「船を待たなくても良い見たいだねぇ。上、何処の所属か解らないけど双発機が来たからねぇ」
 レーダー有効範囲に機影が移りこむ。もみはレーダー3D構造解析を済ませ、機種照合を行った後の様だ。
「大きさから言って航続距離は其れほど長くなさそうだし・・・。追って良い?」
「飛行場があればそれなりに情報が入るだろうしな。追うぞ、前進30kt」
 ゆるりと三隻の駆逐艦が動き出す   双発機が現れた方向へと

 双発の哨戒機らしき機体は上空で数度旋回した後、もと来た方向へ戻っていく。
「見失うなよ」
「一直に帰還するはずだから多分大丈夫。」
 そんな艦隊司令とみぎわの会話

 夜が明けた。何故か時間の誤差は少ないようで、艦隊の時計で0558時の日の出だった。
入れ替わり立ち代り哨戒機(推定)が上空を飛び、迷う事は無い。
異常発生から10時間、発生ポイントから約300海里≒540km進んだところで【みぎわ】のレーダーは陸を捉えた。
「島だと思うよ。278海里先」
「到着は約10時間後か・・・」
「あとなんか小型高速機の反応多数。攻撃機とか戦闘機の類だと嫌なんだけど・・・」

 ・・・みぎわの予感は当たった。
と言うか所属不明の軍用艦の接近を許すほうが間違っている。
 先陣を切ったのは艦上攻撃機。ASMを積めるだけ積んで100km程度から撃ってきた。
ソフトキル、ハードキルに関してこの大きさや設備の艦としては高い能力を誇る人格付与艦がASMを落とせないわけは無い。
 無論被害0に収まる。ここからスタンダード等の対空攻撃を攻撃隊に加える事も可能だがSAMランチャーは沈黙。
この辺り、規則に縛られた正規軍人であると言えよう。

3.
 一応、戦闘の意思が無い事を打電した猫耳艦隊。
異変発生から24時間後の今、何とかみぎわが見つけた島の波止場に止まっている。
「艦長たちはここの責任者と話しに行っちゃたし・・・やる事ないし・・・暇だね。」
 思いっきり暇そうな表情のみぎわが呟く。
「…同…意です…」
 突然現れたみなともそれに同調する。先程までは通信回線だけ開いてみなとの艦橋に居たのだろう。
時間はゆっくりと流れていく。





「現在位置を0ポイントに、艦首方向を方位000に仮設定。出港するぞ。」
 艦橋に入ってきた艦長(兼艦隊司令)からの出航命令。
「解った。出港許可申請、こっちでやっとくね」
 みぎわが目を瞑り、軽く通信機が作動。何時もの事である。
「DD NAGISA−2「MIGIWA」、出港するよ。」

 しばらく艦長(兼艦隊司令)の指示に従って航行していたみぎわ達。
何故か出港二時間後に停船した。
「此処で例の陽炎が良く発生するらしい。それに発生周期を調べると今日明日には出るらしいからな。
暫く待機だ。例の陽炎が起きればまたあの異常が発生するだろうからな。
総員、休憩に入れ。みぎわ、異変があったら知らせてくれ。」
「了解。特別警戒しなくてもあれだけの異常は見落とせないよ」
 艦橋から出て行く艦橋乗組員を見送りつつみぎわが答える。
「じゃ、私もレーダーにだけ集中して電算機室に行ってよ」
 艦橋からみぎわの姿が消え、つぎの瞬間には電算機室に出現する。
機関を止めた為に時折HDDが音を立てる以外は殆ど無音な電算機室に・・・

 身体(艦体)を揺する波の音が心地良い・・・

4.

 ―――― 1時間経過 ――――

 何事も無く穏やかに時間が過ぎ去る【みぎわ】艦内
駆逐艦としては非常に狭いが乗員が10人少々と少ないため比較的ゆったりと過ごせたりする。
 その無人のブリッジに【みなと】からの通信が入る。
『パッスィブ感あり!所属不明潜が11時方向に潜ってます』
 その通信を切っ掛けに空気が変わる。アクティブ・ソナーが自動的に発進される。
「対雷迎撃用意!!位置を特定しろ、話はそれからだ!」
 艦長(兼艦隊司令)、砲雷長(兼船務長兼副長)、操舵手が艦橋に駆け込み、席に就く。
「「本艦(私の)迎撃兵装は40o連装機関砲だけです(だよ)!」」
 砲雷長とみぎわの声が被る。
『…魚…雷発射…音…、…雷…数4…。』
 みなとからの通信。艦長が脊椎反射の如く素早く命令を下す。
「全艦迎撃及び回避運動開始!」
 みぎわは機関を再始動させ、スラスター起動、カナード展開。
【みなと】と【もみ】もそれに続く。
「潜水艦を敵と認識。データリンク完了・・・【みなと】ソナーにより敵位置特定完了」
 回避運動をする三隻の駆逐艦を確実に追う魚雷。ここまで近づけばソナーに特化していない【みぎわ】、【もみ】でも捕捉出来る。
「アクティブ・ホーミングじゃ無いし・・・パッスィブでこの精度は考えにくいし・・・。有線誘導かな?」
 と、40oをばら撒きつつみぎわ。砲雷長は照準を眺めるだけ・・・
因みに【みなと】も40o機関砲を、【もみ】は20oCIWSファランクスをそれぞれ自分を追ってくる魚雷に向かってばら撒いていた。

 魚雷を迎撃するだけでは状況の打破は困難と見た艦隊司令が対潜戦闘を指示し、ASLを登載した【みなと】、【もみ】が撃ち始める。
・・・・・・・・・・・・
『…ノイ…ズ・メーカー…確認…。…第一…射…、…回…避されま…した…。』
 非情なる内容の通信が【みなと】より届く。
「・・・敵潜の形状、音波探査で解らないか?もしかしたら対策が取れるかも知れん」
『… ―― …了…解しま…した…。…実行し…ます…。』
 艦隊司令の思いつきをそのまま実行するみなと。
海中雑音に探査ビーコンが加わる。

「私の出番が少ないのは気のせいかねぇ?」
 気のせいです。

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